2015.02.13 Friday

Untitlde ♯03

0

    幕間にお手洗いに行った。

    靴紐が緩んだので出口にしゃがみこんで紐を結び直していたら、
    そこに「初めて『好きです』と告白した子」が
    歩いて来た。

    全身黒い服を着ていたが喪服ではなかった。

    「こんにちは。お懐かしい」
    と彼女は言った。

    こんなところで逢うとは思わなかったので、驚いたが、
    本当に懐かしかったので、ついまじまじと彼女の顔を見てしまった。

    シワがある。自分と同じような年齢だ。

    よく考えると彼女の顔を良く覚えていないのだが、それでも彼女だと解る。

    彼女の視線は私ではなく背後に注がれていた。振り返ると旦那が用を足して出てきたところだった。
    ぼさぼさの髪の毛。赤い顔。太い眉。

    いそいそと席に戻ると、靴の紐がまだ緩んでいる。
    靴下が靴の中に引っ張り込まれていたので、靴を履き直そうと靴を脱いだら
    昔、彼女にもらった靴下を履いていた。

    靴下には穴が開いていた。




    --------------------------------------------
    Please click

    ギター工房9notes/勝田進

    ブログ「古いギターはいい音がするのさ。」

    ブログ「よごれた顔でこんにちは。」 

    Shop「スモークド乾燥」済み ストラト・ボディ材の販売






    --------------------------------------------

     
    2014.03.11 Tuesday

    Untitled ♯02

    0

      妻と娘が思わず手を口で覆った。


      「おめでとうございます。ご主人は日本国のために命を投げ出す御覚悟。まことに尊いことです。」
      市役所の職員は、赤い封筒を妻に手渡した。


      職員が玄関戸を閉めると、二人は声を上げて泣いた。


      赤い封筒の中身は解っている。
      与党が多数決で国会で成立させた「原子力発電所事故現場に強制的に召集できる法」の、私への「召集令状」だ。


      被爆者続出で危機的な原子力発電所に人を送り込むために政府・与党が成立させたのだ。


      悪化するばかりの原発事故現場。高い濃度の放射能が次々と作業員を被爆させ、もう一般募集では人が集まらなくなったのだ。


      50歳代を狙い撃ちのしたのは、人口比率の高い高齢者や団塊の世代は、与党の票田なので手をつけないようにし、また若い人も国の将来性を考え避けたと思われる。


      働き盛りのピークを過ぎた我々が、強制的に前線へと追いやられるのだ。


      すでにもう何陣も送り込まれている。その多くが病院に収容されているという噂だが、無事退院したという話はひとつも聞かない。


      赤紙を無視して逃げる手もある。ただし捕まるともっとも放射能レベルが高い現場に送られる。
      数分で致死量を超える被爆であろう。


      もっとも、屍の山を乗り越えてあのメルトダウンを誰かが止めないと、この国はだれも住めないところになる。
      それどころか、北半球がダメになるのも時間の問題だろう。


      行くしかないのである。

      -----------------------------------------------------


      ギター工房9notes HPへどうぞ(恵那) homeで「つぶやき」やってます。

      ブログ「古いギターはいい音がするのさ。」

      shop「スモークド乾燥済みSquier製Telecaster販売中」




      にほんブログ村 ライフスタイルブログへ
      にほんブログ村 FC2 Blog Ranking 人気ブログランキングへ





      2013.10.20 Sunday

      Untitled ♯01

      0

         男が夜な夜なミシンを踏んでいる。
         

        日中は発掘現場で働き、午後5時の定時ですぐ帰宅用意し、ラッシュ時間の駅に飛び込む。
        乗り継ぎ駅をいくつか経由し、1時間半かけてアパートのある駅に降り立つ。
        駅前の弁当屋で一番安い「かき揚げ」を二つ買って部屋に帰る。
        その「かき揚げ」を「てんつゆ」でさっと煮込んで玉を流し込み、天丼をつくる。
        まぁまぁ旨いし、安上がりだからな、それ以上を望んじゃいけない。
        そしてミシンに向かう。
        リバース装置付きのカセットデッキに「ブルーハーツ」のカセットを入れ、音楽に酔いながらミシンを踏む。
        天丼とともに焼酎の炭酸割りを飲んだから、いっそう音楽に酔う。ロックに酔う。ブルーハーツに酔う。
         

        あぁ、もう寝なくっちゃ、明日の仕事に障るな。
        炎天下での発掘作業は、しんどいんだぜ。
        と独り言を言って男は熱い風呂に入り寝る。
        贅沢にも内風呂つきのアパートなんだ。
         

        月曜日から金曜日、週末も一目散に帰宅しミシンを踏む。
        赤い布をひたすら繋ぎ、何を作ろうとしているのだ?
        土曜も日曜もミシンを踏む。
        その間、洗濯と掃除もした。意外ときれい好きのようだ。
         

        この街の週末には、魅力的なライブが目白押しだ。
        行きたいライブやお誘いもある。
        しかし、男はミシン仕事を今月末までに仕上げないといけないのだ。
         

        来月には、男の「個展」が開かれることになっている。
        一週間レンタルの画廊で、男の個展が開かれるのだ。
        DMもつくり、友人・知人の郵送した。
        どうぞお越しください、と書かれているらしい。
         

        この街には友人・知人も少ないが、男はこの街で個展を開くことにした。
        だれが見に来てくれるか、皆目見当もつかないが、やるしかないのだ。
        男はなにもかも捨ててミシンを踏んだのだ。
        だが服を作って訳じゃない。
        モード・ファッションが男の土俵ではない。
         

        男の土俵は、「現代美術」。
        コンテンポラリー美術・現在進行形美術だと言う。
         

        そんなもん観る人がいるのか?
        関心ある人がいるのか?
        それをやってなにかいいことでもあるのか?
        それで収入を得ることができるのか?
        収入をえられない仕事なんて、趣味だろ?と言うヤツもいる。
         

        それでも男は開催日に向けてミシンを踏む。
         

        オープンニングに顔を出してやって下さい。
        入場料は画廊では取りません。無料で見られて批評もできるのです。
        そこで、男が何を成し遂げ、何を犠牲にしているか見てやってください。
         

        お願いします。

        −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

        ギター工房9notes HPへどうぞ(恵那) homeで「つぶやき」やってます。


        にほんブログ村 ライフスタイルブログへ
        にほんブログ村 FC2 Blog Ranking 人気ブログランキングへ

         

        Calendar
          12345
        6789101112
        13141516171819
        20212223242526
        2728293031  
        << October 2019 >>
        Selected Entries
        Categories
        Archives
        Recommend
        Links
        Profile
        Search this site.
        Others
        Mobile
        qrcode
        Powered by
        30days Album
        無料ブログ作成サービス JUGEM