2018.06.13 Wednesday

透り抜ける男

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    強い陽光が教室を白色化させている。

    国語の答案用紙も真っ白だ。

    なんで質問者は、作者でもないのに言葉の意味を断定できるのだろう。

    もし私が作家になったら、自分の文章をテストには使わせないぞ。

     

    静かな時間が過ぎて行く。

    解らない問題を解くのは、時間の無駄だ。

    解る問題だけが答えられる。記入できる。

     

    どの教室の生徒も西向きの黒板の方角に向かって着席している。

    みんなが同じ方向を向いている。

    ならば、背後から近づいて来る人間には気が付かないだろうな。

     

    私は席の一番後ろに座っているから、

    ここから黒板方向へ走って行けば、私の正面を見ることはできないはずだ。

    皆、私の後ろ姿だけを追う。

     

    だが、黒板にぶつかってしまう。

    ならば、黒板を透り抜けたらどうだ?

    『壁抜けの術』を使うのだ。

     

    そして5組から1組まで走り抜ける。

    一気に走り抜ける。

    2組の順子ちゃんも見てくれるかな。

     

    だがひとつ問題がある。

    ここは3階ということだ。1組の壁を抜けるとどうなる?

     

     

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    2018.05.31 Thursday

    新同盟国

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      一斉にフラッシュがたかれた。

      小泉大治郎首相と習遠平国家主席が硬く握手を交わし、抱擁した。

      両者とも幾分高揚した顔つきだ。

       

      日本国と中華人民共和国が同盟国の調印をした。

      先月、日本は米国との同盟国協定を破棄したのだった。

       

      日本は米国の”核の傘”から離れ、中国の”核の傘”の下に入ることを選んだ。

      ここ数年、米国の凋落は激しく経済力の衰えも目を覆うばかりだった。

      日本車の米国内のシェアは8番目になり、一方 中国内では日本車の需要はうなぎのぼりである。

       

      太平洋で繰り広げられる米中の軍事駆け引きは、中国の押しばかりが目立っている。

      日本の米国基地も士気が落ち荒れるのに手を焼き、小泉大治郎首相は

      米国へ軍の撤退を迫った。

       

      そして、日本はついに中国を手を組んだのだ。

      これで、世界一の経済力を誇る中国内で、ますます自動車が売れるだろう。

      電気自動車の開発の遅れもその隙に挽回できるプランだ。

       

      ”昨日の敵は今日の友”これが生き残る必須条件なのだ。

       

       

       

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      2018.05.04 Friday

      春の自転車

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        不安に追い討ちを掛けるような雨天。

        いやだなぁ。学校に行きたくないなぁ。

         

        中学に進級して自転車通学になった。けっこう通学路にはアップダウンがあるから

        学校に着くころにはへとへとになってしまう。でも見知らぬ顔の前では

        そんな姿を見せられないから、眉毛に力を入れる。

         

        合羽を羽織って自転車をこぐのは苦手。なんだか自分の手足でないみたいだ。

        雨音がフードを通してパチパチ聞こえる。雨粒が合羽の表面ではじけて細かい水粒となる。

         

        4月は案外雨の日が多い。真新しい自転車と真新しい合羽と兄貴のお古の学ラン、そして

        真新しいヘルメット。雨合羽の中でそれらの匂いが混じる。ゴムの匂いが強いかな。

         

        でも、こうして合羽に身を包んでいると守られているような気にもなる。

        自分の呼吸音が聞こえる。自動車の近づく音がフィルターが掛かったようにエフェクトしている。

         

        行きたくない学校だが、鎧を来て行けば過ごせるかも知れないと

        合羽を着ててそう思う。戦国武将の鎧が欲しい。

         

         

        あいつは雨の中、傘も差さずに歩いて来た。

        これから授業だっていうのに、ずぶぬれだ。

        ヤツは切れ者。

        鎧以外、刀も必要だ。

         

         

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        2015.02.25 Wednesday

        裸の王様

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          俺はこの会社の社長だ。

          俺がこの会社の憲法だ。

          俺が全てを裁く。俺の気に入らないことはすべてアウト。

          俺の好きなようにやる。当たり前だ。

          気に入らないヤツは首にする。

          文句あっか?俺はこの会社の社長だ。偉いんだ。

          俺に意見するって?

          いい根性じゃないか。覚悟はできてるんだな?

          えっ?

          俺が般若心経を毎朝唱えているって知ってる?

          なんのこっちゃ?関係ないだろ?

          えっ?

          大乗仏教は「救済」を目的にしてるって?

          そっ、そんなの当たり前だ。知ってるに決まってるだろおぅ〜・・

          えっ?

          全ての人に仏性があるって?

          そっ、そうなんだ。そうだろう・・・

          悪人だって救われる可能性はあるんだって?

          そっ、そりゃ〜 そ、そうだな・・・・

          ・・・・・・



          「般若心経」はただの呪文じゃないです。意味があります。



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          2015.02.13 Friday

          Untitlde ♯03

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            幕間にお手洗いに行った。

            靴紐が緩んだので出口にしゃがみこんで紐を結び直していたら、
            そこに「初めて『好きです』と告白した子」が
            歩いて来た。

            全身黒い服を着ていたが喪服ではなかった。

            「こんにちは。お懐かしい」
            と彼女は言った。

            こんなところで逢うとは思わなかったので、驚いたが、
            本当に懐かしかったので、ついまじまじと彼女の顔を見てしまった。

            シワがある。自分と同じような年齢だ。

            よく考えると彼女の顔を良く覚えていないのだが、それでも彼女だと解る。

            彼女の視線は私ではなく背後に注がれていた。振り返ると旦那が用を足して出てきたところだった。
            ぼさぼさの髪の毛。赤い顔。太い眉。

            いそいそと席に戻ると、靴の紐がまだ緩んでいる。
            靴下が靴の中に引っ張り込まれていたので、靴を履き直そうと靴を脱いだら
            昔、彼女にもらった靴下を履いていた。

            靴下には穴が開いていた。




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            2014.03.11 Tuesday

            Untitled ♯02

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              妻と娘が思わず手を口で覆った。


              「おめでとうございます。ご主人は日本国のために命を投げ出す御覚悟。まことに尊いことです。」
              市役所の職員は、赤い封筒を妻に手渡した。


              職員が玄関戸を閉めると、二人は声を上げて泣いた。


              赤い封筒の中身は解っている。
              与党が多数決で国会で成立させた「原子力発電所事故現場に強制的に召集できる法」の、私への「召集令状」だ。


              被爆者続出で危機的な原子力発電所に人を送り込むために政府・与党が成立させたのだ。


              悪化するばかりの原発事故現場。高い濃度の放射能が次々と作業員を被爆させ、もう一般募集では人が集まらなくなったのだ。


              50歳代を狙い撃ちのしたのは、人口比率の高い高齢者や団塊の世代は、与党の票田なので手をつけないようにし、また若い人も国の将来性を考え避けたと思われる。


              働き盛りのピークを過ぎた我々が、強制的に前線へと追いやられるのだ。


              すでにもう何陣も送り込まれている。その多くが病院に収容されているという噂だが、無事退院したという話はひとつも聞かない。


              赤紙を無視して逃げる手もある。ただし捕まるともっとも放射能レベルが高い現場に送られる。
              数分で致死量を超える被爆であろう。


              もっとも、屍の山を乗り越えてあのメルトダウンを誰かが止めないと、この国はだれも住めないところになる。
              それどころか、北半球がダメになるのも時間の問題だろう。


              行くしかないのである。

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              2013.10.20 Sunday

              Untitled ♯01

              0

                 男が夜な夜なミシンを踏んでいる。
                 

                日中は発掘現場で働き、午後5時の定時ですぐ帰宅用意し、ラッシュ時間の駅に飛び込む。
                乗り継ぎ駅をいくつか経由し、1時間半かけてアパートのある駅に降り立つ。
                駅前の弁当屋で一番安い「かき揚げ」を二つ買って部屋に帰る。
                その「かき揚げ」を「てんつゆ」でさっと煮込んで玉を流し込み、天丼をつくる。
                まぁまぁ旨いし、安上がりだからな、それ以上を望んじゃいけない。
                そしてミシンに向かう。
                リバース装置付きのカセットデッキに「ブルーハーツ」のカセットを入れ、音楽に酔いながらミシンを踏む。
                天丼とともに焼酎の炭酸割りを飲んだから、いっそう音楽に酔う。ロックに酔う。ブルーハーツに酔う。
                 

                あぁ、もう寝なくっちゃ、明日の仕事に障るな。
                炎天下での発掘作業は、しんどいんだぜ。
                と独り言を言って男は熱い風呂に入り寝る。
                贅沢にも内風呂つきのアパートなんだ。
                 

                月曜日から金曜日、週末も一目散に帰宅しミシンを踏む。
                赤い布をひたすら繋ぎ、何を作ろうとしているのだ?
                土曜も日曜もミシンを踏む。
                その間、洗濯と掃除もした。意外ときれい好きのようだ。
                 

                この街の週末には、魅力的なライブが目白押しだ。
                行きたいライブやお誘いもある。
                しかし、男はミシン仕事を今月末までに仕上げないといけないのだ。
                 

                来月には、男の「個展」が開かれることになっている。
                一週間レンタルの画廊で、男の個展が開かれるのだ。
                DMもつくり、友人・知人の郵送した。
                どうぞお越しください、と書かれているらしい。
                 

                この街には友人・知人も少ないが、男はこの街で個展を開くことにした。
                だれが見に来てくれるか、皆目見当もつかないが、やるしかないのだ。
                男はなにもかも捨ててミシンを踏んだのだ。
                だが服を作って訳じゃない。
                モード・ファッションが男の土俵ではない。
                 

                男の土俵は、「現代美術」。
                コンテンポラリー美術・現在進行形美術だと言う。
                 

                そんなもん観る人がいるのか?
                関心ある人がいるのか?
                それをやってなにかいいことでもあるのか?
                それで収入を得ることができるのか?
                収入をえられない仕事なんて、趣味だろ?と言うヤツもいる。
                 

                それでも男は開催日に向けてミシンを踏む。
                 

                オープンニングに顔を出してやって下さい。
                入場料は画廊では取りません。無料で見られて批評もできるのです。
                そこで、男が何を成し遂げ、何を犠牲にしているか見てやってください。
                 

                お願いします。

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